夏の朝、玄関の前やベランダのコンクリートの上で、たくさんのワラジムシがひっくり返って死んでいる。そんな光景を目にしたことはありませんか。殺虫剤を撒いたわけでもないのに、なぜ彼らはこのような場所で力尽きてしまうのでしょうか。この少し不思議で、少し物悲しい現象には、彼らの体の仕組みと習性が深く関わっています。この謎を解く鍵は、ワラジムシが生きる上で不可欠な「湿気」と、彼らが苦手とする「乾燥」そして「日光」にあります。ワラジムシは、甲殻類としての名残である「偽気管」という器官で呼吸しており、その機能のためには体の表面が常に湿っている必要があります。そのため、彼らは夜間の湿度の高い時間帯に、より快適な湿気や餌を求めて、普段の隠れ家である土の上や落ち葉の下から出てきて、広範囲を移動します。その探索の過程で、彼らは家の壁を伝ったり、コンクリートの上を横切ったりすることがあります。しかし、彼らの体内時計は、夜が明ける前に安全な湿った場所へ戻るようプログラムされています。ところが、中には道に迷ってしまったり、探索に夢中になりすぎたりして、夜明けまでに隠れ家に戻り損ねる個体が出てきます。そして、太陽が昇り、コンクリートの表面が熱せられ始めると、事態は一変します。コンクリートは非常に保水性が低く、日光に照らされると急速に乾燥し、高温になります。湿った場所を求めてさまよう彼らにとって、そこは灼熱の砂漠のようなものです。逃げ場を失ったワラジムシは、体の表面から急速に水分を奪われ、脱水症状に陥ります。そして、強い紫外線に晒されることで、体の機能もダメージを受け、やがて力尽きて死んでしまうのです。つまり、コンクリートの上での彼らの死は、夜の冒険の末に、帰り道を見失ってしまった悲しい遭難事故の結果なのです。この現象は、ワラジムシがいかに湿気に依存し、乾燥に弱い生き物であるかを、私たちに雄弁に物語っています。
コンクリートの上で死ぬワラジムシの謎