この道三十年のベテラン、佐藤さんは数千件の現場を渡り歩いてきた、ゴキブリ対策の生ける伝説とも呼べる業者の一人ですが、彼にゴキブリ対策の「真実」を尋ねると、意外にも第一の答えは殺虫剤ではなく「住人の意識」にあると返ってきました。「お客様は、業者が魔法のように一発で虫を消してくれると思いがちですが、本当の仕事はゴキブリを『呼ばない家』を作ることなんです」と佐藤さんは語ります。彼が現場でまず最初に見るのは、実はキッチンの隅にある「玉ねぎ」や「段ボール」だと言います。これらはゴキブリにとって最高の餌であり、かつ卵を産み付けるのに最適な保温場所だからです。「いくら私が強力な薬を撒いても、お客様が段ボールを溜め込んだり、生ゴミを出しっぱなしにしたりしていれば、外から新しいゴキブリが引き寄せられてくるんです」という言葉には、長年の経験に裏打ちされた重みがあります。また、佐藤さんは業者の真の付加価値は「見えないものを見る力」にあると強調します。一般の人は壁を見て「ただの壁」だと言いますが、佐藤さんの目には、壁紙の僅かな浮きや、幅木とフローリングの間に空いた一ミリの隙間が、ゴキブリにとっての「高速道路」に見えるのだそうです。「そこを塞がない限り、駆除は終わらない」と言い切り、彼は黙々とコーキングガンを操り、隙間を埋めていきます。最近の住宅については、高気密・高断熱化が進んだことで、一度侵入された時の定着リスクが昔より高まっていると警鐘を鳴らします。「今の家は冬でも暖かいですから、一度中に入り込んでしまえば彼らにとっては天国です。だからこそ、新築の時こそ業者を呼んで、物理的な防御を完璧にすべきなんです」と佐藤氏はアドバイスします。インタビューの最後、彼は「ゴキブリとの戦いは知恵比べ。相手の生理的な欲求を知り、それを一つずつ丁寧に奪い去ること。それがプロの仕事です」と微笑みました。業者の仕事とは、単に虫を殺すことではなく、住宅というシステムの不具合を修復し、自然界の侵略者と人間の生活圏を明確に線引きする工学的な作業なのです。佐藤さんのような職人が守っているのは、私たちの清潔さだけでなく、家というテリトリーに対する主権そのものなのだと強く感じさせられました。