マンション暮らしにおける最大の悪夢の一つ、それは「隣の部屋がゴミ屋敷である」という事実が発覚した時かもしれません。自分の部屋をどんなに清潔に保ち、対策を講じても、隣室がゴキブリの巨大な繁殖プラントと化している場合、その被害から完全に逃れることは極めて困難です。窓を開ければ異臭が漂い、ベランダの隔て板の下からは、黒い影が我が物顔で侵入してくる。そんな絶望的な状況に、多くの人がなすすべもなく頭を抱えています。このような困難な状況において、私たちは一体どのような対策を取ることができるのでしょうか。まず、精神的に非常に厳しいことですが、これまで以上に徹底した「自室の防衛」を行う必要があります。隣室との境界である壁や、ベランダの隔て板の周辺は、もはや最前線です。壁に面した家具は全て動かし、壁と床の継ぎ目、コンセントプレートの周り、エアコンの配管周りなど、ありとあらゆる隙間を、コーキング剤やパテで、執拗なまでに塞いでいきます。ベランダの隔て板の下の隙間も、ゴキブリが通り抜けられないように、物理的に塞ぐ工夫が必要です。そして、ゴキブリの餌となるものを、家の中から完全に排除します。生ゴミは絶対に放置せず、食品は全て密閉容器に入れる。キッチンは使用後、洗剤で完璧に拭き上げ、匂いを残さない。彼らが隣室からわざわざ危険を冒してまで侵入してくる「動機」を、徹底的に奪うのです。しかし、これらの個人レベルの対策には、残念ながら限界があります。最も重要なのは、この問題を個人で抱え込まず、「管理会社や大家さんに相談する」ことです。隣室の状況が、他の住人の衛生環境や、建物の資産価値にまで悪影響を及ぼしていることを、冷静に、そして具体的に伝えましょう。異臭や害虫の発生といった客観的な事実を、できれば複数の住民と連携して報告することで、管理会社も問題を看過できなくなります。プライバシーの問題もあり、解決には時間がかかるかもしれませんが、管理会社には、集合住宅の良好な住環境を維持する義務があります。粘り強く、しかし冷静に、然るべきルートで改善を求めていくこと。それが、この絶望的な戦いを終わらせるための、唯一の、そして最も正しい道筋なのです。