愛書家にとって、これほど恐ろしい言葉はないかもしれません。「あなたの本、紙虫(シミ)に食べられていますよ」。本を愛する者にとって、シミは単なる不快害虫ではなく、大切な知的財産と、かけがえのない思い出を蝕む、まさに天敵とも言える存在です。彼らの魔の手から、貴重な蔵書を守り抜くためには、一般的な害虫対策に加えた、本に特化した専門的な保管術と知識が必要となります。シミが本を食べる時、彼らが狙っているのは紙そのものよりも、むしろ本の製本に使われている「糊(のり)」です。特に、古い本の背表紙に使われているデンプン糊は、彼らにとって極上のご馳走となります。この糊を食べる際に、周囲の紙や表紙まで一緒に食い破ってしまうのです。大切な本をこの食害から守るための最大のポイントは、「保管環境の管理」に尽きます。まず、本棚の設置場所を見直しましょう。湿気がこもりやすく、温度変化の激しい壁際や、直射日光が当たる窓際、そして結露しやすい北側の部屋は避けるべきです。できるだけ、風通しが良く、一年を通して温度や湿度が安定している部屋の中央に近い場所に置くのが理想です。次に、本の保管方法です。特に貴重な本や、長期間読まない本は、ただ本棚に並べておくだけでは危険です。最も効果的なのは、密閉性の高いプラスチック製の収納ケースに入れて保管することです。その際、必ず衣類用の防虫剤(ピレスロイド系の無臭タイプがおすすめ)を一緒に入れてください。防虫剤の成分がケース内に充満し、シミの侵入と活動を防いでくれます。さらに、昔から図書館や書庫で行われてきた、日本の伝統的な知恵である「虫干し」も非常に有効です。年に一度、空気が乾燥した晴れた日に、本をケースから出して風通しの良い日陰でページをパラパラとめくり、内部にこもった湿気を飛ばします。これにより、シミだけでなく、カビの発生も防ぐことができます。また、本棚自体も定期的に清掃し、ホコリが溜まらないようにすることが重要です。ホコリもまた、シミの餌となるからです。少しの手間と愛情をかけることが、あなたの大切な本を、数十年、数百年先まで美しい状態で保ち、未来へと受け継いでいくための、唯一の方法なのです。
大切な本を紙虫から守る方法