「うちは清潔にしているはずなのに、なぜ紙虫が出るのだろう」。そう疑問に思う方は少なくないかもしれません。シミ(紙魚)の発生は、単に不潔だからという単純な理由だけではありません。彼らがあなたの家に現れ、住み着くのには、彼らの生態に基づいた、いくつかの明確な理由が存在するのです。あなたの家が、彼らにとって「最高のレストランと安全な寝床を備えた五つ星ホテル」になってしまっている可能性があります。シミが快適に暮らし、繁殖するために不可欠な三大条件、それは「高い湿度」「暗闇」、そして「豊富な餌」です。まず、最も重要なのが「湿度」です。シミは乾燥に非常に弱く、湿度がおおむね七十パーセント以上の、湿潤な環境を好みます。特に、梅雨の時期や秋の長雨の季節、そして冬場の結露が発生しやすい時期は、彼らにとっての活動シーズンです。風呂場や洗面所、トイレといった水回りや、日当たりが悪く湿気がこもりやすい北側の部屋、そして長年開け閉めしていない押し入れやクローゼットの奥などは、彼らにとって最高の生息場所となります。現代の気密性の高い住宅は、意識して換気を行わないと湿気がこもりやすく、シミにとって理想的な環境を提供してしまうのです。次に、「暗闇」です。彼らは完全な夜行性で、光を極端に嫌います。そのため、本棚の奥や家具の裏側、積み上げた段ボールの中、壁紙の剥がれた内側、床下の暗がりといった、一年中光が当たらない場所を安全な隠れ家として利用します。そして、三つ目の条件が「餌」の存在です。彼らの主食は、炭水化物、特にデンプン質です。その名の通り、紙そのものを食べることもありますが、より好むのは、本の製本に使われている糊や、掛け軸やふすまを貼るための接着剤、そして壁紙のデンプン糊です。また、衣類に付着した食べこぼしのシミや、床に落ちた小麦粉などの食品カス、ホコリや髪の毛、そして仲間の死骸まで、非常に広範囲なものを餌とします。これらの「湿度」「暗闇」「餌」という三つの条件が奇跡的に揃った場所、それこそが、シミがあなたの家に住み着く理由なのです。
あなたの家が紙虫に選ばれる理由